示している「相互感得、共同感情、感情伝播、一体感」の、何処に位置しているかを認識し、「感情伝播、一体感」を起こしているときは軌道修正しながら、「共同感情」で対応することが求められる。例えばクライエントと医療関係者（クライエントと医師など）、自分自身と他者の間に起きた問題が何かを考える時に、問題解決ツールを使用してみることは前述した。並行して、自分の心理状態が、マックス・シェーラーの同情の本質と諸形式で示されている「感情伝播や一体感」を起こしているときは「共同感情」に軌道修正しながら、対応することについても既に述べた。以下に、相互感得、共同感情、感情伝播、一体感とはどういうことか、シェーラーのことばを引用しながら簡潔に説明を加え、具体的な例を挙げる。 【相互感得】「父と母が一人の子供の屍体のかたわらにたっている。彼らはお互いに苦しみを感じている。」父と母はそれぞれお互いに苦痛と悲しみを感じているということである。 【共同感情】「父の苦しみと悲しみは父に帰属するものであり、母の苦しみと悲しみもまた母にのみの帰属するものであり、すなわち、父と母の苦しみとは、現象学的に二つの異なった事実である。」ということである。【共同感情の実例】神谷美恵子氏（精神科医）と外口玉子氏（精神科看護師）の場合 学生時代の集中講義で、外口先生が神谷先生との対談を紹介してくれた。その内容は、「岡山の中島愛成園（らい療養所）の精神科病棟の廊下での出来事、神谷は廊下の隅に蹲る青年に出会った。声をかけようかかけまいか迷ったが、声をかけずに、その場を共有して、静かに去った。」その後数日が過ぎた日、神谷先生と青年が再び会った。青年は「神谷先生、あの時はありがとうございました。」と言った。神谷先生は静かに頷いた。 【感情伝播】共歓、共苦、悲しみが「伝播し」「一緒に引きずりこまれる」のみで、相互感得、共同感情からも隔てられ、なんらの思いやりも成り立たない。【感情伝播の実例】老健施設での実習巡回時の出来事である。14時過ぎ、ホールには車いすに乗った利用者が4人居た。彼らは長いテーブルに沿って並んでいた。テレビから最後尾の利用者が涙を流してい５．シェーラーの同情の本質と諸形式 今抱えている人と人との間に起きている倫理的問題、た。私は「どうしたの？」と声をかけた。「隣の人が泣いているから」と言った。隣の人に「なんで泣いているの？」と聞いたら。同じように「隣の人が泣いているから」と言った。テレビに一番近い人に「どうして泣いているの？」と聞いたら、「今、水戸黄門みて良いところで涙が出ていた」と答えた。 【一体感：特発性型】他我が自我によって全面的に吸い上げられ、取り入れられる。 【一体感：異発性型】自我が他我によって圧倒され、他者が自我に本質的に備わるすべての基本的構えとともに登場する。【一体感：特発性型の実例】消灯後にナースコールを鳴らす患者に腹を立てる看護師【一体感：異発性型の実例】白血病の小児の入院に我が子のように思ってしまう看護師 一体感の異発性型が、一般的に感情移入とか同情と表現される。何もできない自分自身が情けないと思う共感疲労とも重なる部分があるのではないかと考えている。この一体感を繰り返すとバーンアウトを起こすことにも繋がる。一体感を起こすことは、新人看護師にとっては大切なプロセスでもある。新人看護師や新人教員は「一体感：特発性型、異発性型」を何度か繰り返し、達人看護師からの適切な助言により、バーンアウトに陥らない。そして、成長しジェネラリストとして、セルフコントロールをし「共同感情」を保ちながら、クライエントに最善なケアを提供できるようになる。これは、私自身の体験から言えることで確かである。自分自身を見つめ直し、「共同感情」に軌道修正することで、自分自身と他者を大切にすることができる。他者に映る自分も含めて再確認したいことである。【一体感の特発性型から共同感情へ変わっていく実例】深夜帯バイタルサインの測定が終わり、６時30分頃にナースコールが鳴る。肺膿瘍で酸素吸入をしている T さんである。ベッドサイドでポータブルトイレを使用している。看護師、（また、T さん !! 今一番大変な時間帯なのに……う……もう）とつぶやきながら個室に行き大便の後始末をする。看護業務の忙しさの中でタイミング悪いと腹を立てて『一体感（特発性型）』を起こしている。看護師は、自身のつぶやきが善くないと反省し、次回からは、「クライエントが気持ちよくなるように後始末をしよう」と決める。次の深夜、同じ時間帯に、ナースThe 50th Anniversary Japanese Society of Nursing Research 5
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