The 50th Anniversary栗原(大橋) 佳代 2021年度奨励賞 2021年度奨励賞 2022年度奨励賞 2022年度奨励賞小林 美雪野中 光代森田 公美子論文名 「無床診療所で医療安全に取り組んでいる看護師の安全文化─無床診療所におけるエスノグラフィー」 本論文は、第5次医療法改正により全医療機関に安全確保が義務となるなかで、病院のように安全管理体制の整備が診療報酬で算定されず、事故報告体制も不十分な無床診療所で発生した医療事故の要因が、安全文化の欠如であったことが研究動機となりました。また当時、法改正に携わった者としての責務を感じたことも憶えています。 本研究はエスノグラフィーを研究デザインとして、看護師の安全に関する言動を文脈ごと抽出し分析を行い、無床診療所の看護師の安全文化を明らかにしました。 研究を受け入れて頂いた診療所に論文掲載と受賞をお伝えしたところ、院長から「日常あまり考えないで当たり前にやってきたことが文章で表現されたことで、自院の医療安全への取り組みを客観的に評価できた」との言葉を頂き、師長は地域の看護協会から講演依頼が来るようになったとのことでした。本研究が小規模病院や無床診療所の医療安全に僅かでも寄与できたことに喜びを感じています。 現在、本研究の成果は医療安全管理者や医療介護の関係者を対象とした研修や講演で、安全文化の重要性を伝える資料として活用しています。受講者が各施設で安全文化を醸成する一助になればと思います。 奨励賞受賞のメールを受け取った時、たくさんの方が頭に浮かびました。まず、審査の先生方はこんな少数派の人々の研究も認めて下さったのだと驚きました。もしかしたら続きの研究を見て、遡ってこの研究を見て下さったのかもしれないとも思いました。修士論文の一部でしたので、主指導、副指導の先生はじめ、大学院の多くの先生が、惜しみなくこの研究にご指導やご助言をして下さいました。研究方法を学んだ M-GTA 研究会の先生方も惜しみなくご指導やご助言を下さいました。多くの障害者施設の施設長様が協力して下さり、お母様方がうちの子の話で協力できるならと、インタビューに応じて下さいました。現場で、肥満の重度知的障害者を前に、自分には解決する看護技術がない……と始めた研究ですが、多くの方々のおかげで、起きている現象を記述することができました。その後、減量プログラム開発、汎用性の検証を進めています。次は社会実装を目指します。健康科学大学 看護学部日本福祉大学 本稿を執筆するにあたり、名誉ある賞を賜ったことを改めて大変光栄に感じております。 本研究は、同一家系において2人目に乳がんを発症したと自覚する女性を対象としており、私の臨床看護実践において姉妹やこどもの乳がんの発症を懸念する対象者の生の声がしばしば聴かれたことが研究上の問いとなり、この方たちや乳がん発症のリスクがあると考えられる人たちへの支援の確立を目標に取り組み始めた研究となります。このように臨床にある身近な問いをきっかけとしている研究であるため、受賞の際には驚き、嬉しさもありながら恐縮もするといった想い出があります。 本研究の主題は、がんと遺伝、その看護であり、未だに多くの探究する課題があり、実際に研究の幅が広げられている領域であると考えます。本研究が臨床看護への還元を経て、実践に貢献する一助となることを願い、信じながら、この受賞をさらに研究を継続する糧として精進していきたいと思います。 2022年度奨励賞をいただきました「再発や増悪を経験したがん患者が“家族と対話し難い体験”」は、現象学的アプローチを用い患者さんの体験をありのまま記述することを大切にしました。学生時代に感銘を受けたヘンダーソンの言葉、「優れた看護師は患者の“皮膚の内側に入り込む”」を胸に、患者さんの体験世界を真に理解したい、その一心で書き上げた論文です。 受賞のお話をいただいた際、AI をはじめとしたデジタル技術の発展が目まぐるしいこの時代に本研究を選んでいただけたことには、非常に大きな意味があると感じました。デジタル化が進む中、看護師にはより一層、「データ」では読み取れない「人」を理解する力が求められていると確信しています。 これからも「人」の理解、および深い理解に基づいたよりよい看護実践、つまり「看護師が患者の皮膚の内側に入り込んで行う看護」の一助となるような研究を行っていきたいと考え、研究活動に励んでおります。香川県立保健医療大学 保健医療学部岐阜大学 医学部看護学科Japanese Society of Nursing Research 89
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